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出典及び参考文献:衛星&ケーブルテレビ2004年11月号掲載「特集 地上波デジタル放送の現況」(株式会社テレケーブル新聞社発行)/年間購読料16000円(税・送料込)
<都市型難視聴> 総務省と地上波放送事業者は、地上デジタル放送の開始により、都市型難視聴エリアの 世帯数が現在の約10分の1にまで減るとの推定結果を公表した。 日本CATV技術協会では、建造物障害予測手法などを基にして、全国の受信障害の改 善効果を机上シミュレーションした。その結果、建造物の約9割は強電界である都市部 に集中しており、デジタル放送により、そのほとんどは受信可能となることが分かった 。受信障害対策が依然必要な世帯は、100万世帯程度に減少すると予測した。 アナログ時代の建造物障害は、ほとんどがマルチパスによって発生していた。これは放 送波が建物などによって反射する現象で引き起こされ、画面上にはゴースト障害として 現れていた。地上デジタル放送では、受信性能に優れるOFDMを採用した効果で、こ の問題がほとんど解決される。 日本では、1960年代後半から建造物の高層化が始まった。特に都市部で顕著な現象 となり、結果としてテレビの受信障害が発生して社会問題となった。やがて原因者負担 による電障対策が社会慣行として定着し、共同受信施設の設置やケーブルテレビへの加 入が増加するようになった。 現在、全国で約1,300万世帯におよぶと思われる世帯が、何らかの対策施設で共同 受信している。このうち、約900万世帯が建造物による障害の対策世帯である。 <段階的パワーアップについて> 現在、地上デジタル放送が出ている東名阪では、アナログ周波数変更の進捗状況に合わ せ、今後は段階的に送信電波のパワーアップが計画されている。 関東地区では、東京タワーの電波はNHK総合テレビだけが出力300Wで出ているが 、あとの民放テレビなどは極めて出力が少なく、見える範囲も港区、千代田区、中央区 の一部に限られていた。アナログ周波数変更対策が予定以上に早く進み、八王子中継局 の他、青梅沢井、多摩中継局も新CHへの移行が既に完了した。これにより、年内に予 定されていたエリア拡大に向けた試験電波の出力増強だったが、前倒しして、8月2日 から増力が開始された。NHKデジタル総合は、現行エリアに埼玉県東部を加えた約8 80万世帯で、NHKデジタル教育と民放キー局が、首都圏西南部や千葉県西部などの 東京湾の周辺地域を加えた約640万世帯で視聴可能となる見込み。本年末までには7 00Wにパワーアップされて、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県の一部でデジタル波 が見られるようになるだろう。 今後は年末に向け、目標の700Wまで障害が発生しないことを確認しながら段階的に 増力していく予定。従って視聴できる地域は、今後更に拡大される。 中京地区では、同じく本年末までには瀬戸市の鉄塔からの送信パワーが増力されて、9 月1日に500W、28日に1.5kWと段階的に増力される。最終的には規定のパワ ーである3kWで出る予定である。3kWのフルパワーで出力されると、愛知県のほぼ 全域、岐阜県及び三重県の一部で受信することが出来るようになる。 近畿地域ではオリンピック期間中も現在の10Wのままだったが、年末までには100 Wにパワーアップされるので、大阪府の全域、京都府、兵庫県および奈良県の一部で見 ることができるだろう。さらに同地域ではNHK神戸放送局やサンテレビジョンなどが 今年の12月から地上デジタル放送を始める。また、既存のエリアもさらに拡大される 。アナログ周波数変更も93%の進捗率で、順調に進んでいる。 次の地上デジタル波の開局は、NHKの予定では2004年10月に水戸、富山局、1 1月に岐阜局、12月に神戸局と続いている。さらに2005年には4月に京都、奈良 大津、津局、6月に和歌山、静岡局、と順次開局するものと思われる。北海道地区のア ナログ周波数変更対策は、札幌市の一部ですでに行われたが、地上デジタル放送開始は 2006年度からとなっている。 <1セグモバイル> テレビ放送の受信スタイルは、これまで家庭に置かれた固定テレビでの視聴が当たり前 であり、自動車など移動体やモバイル端末での受信は、あくまで例外的なスタイルだっ た。それがここ1〜2年の傾向として、携帯電話などを使った”モバイル受信”に注目 が集まってきた。 日本の地上デジタル放送には、世界に例のない携帯受信端末向け放送サービスを可能に しているという特長がある。この放送の技術方式は、ハイビジョン放送を可能にしたこ とと携帯受信端末向けの放送サービスを可能にした仕組みとなっている。昨年12月の 放送開始時点では映像符号化技術の特許問題が未解決のためモバイル向け放送の実施が 見送られていた。しかしここにきて、地上波放送デジタル化のメリットとして、放送事 業者に与えられた13セグメントの帯域のうちの1セグメントを使って展開される1セ グモバイル受信が注目されるようになってきた。 またモバイル受信とは縁遠いはずであった衛星放送についても、独自衛星によるSバン ドを使った「モバイル放送」がサービス開始に向けて最終準備の段階に入っており、い よいよ今年10月中旬から衛星による放送開始を予定している。さらには、これまで多 チャンネル放送を行ってきたスカパーの放送も、携帯電話端末でも受けられることにな るという。 テレビ放送のモバイル受信というスタイルはこれまでなかった。それだけに、アナログ 放送時のように、「モバイル受信は”あくまでも例外的なスタイル”で、映像や音声の 質まで保証しない」という言い訳は通用しなくなっている。 <12セグメント放送と1セグモバイルの違い> 12セグメントを使う固定テレビ向けのチャネルは、最大約21Mbpsでデジタル・ データを伝送することができる。このチャネルを使って「MPEG−2」というフォー マットの多チャンネル映像を送信することが出来る。最大1920×1080画素のハ イビジョン番組は約18Mbpsの帯域が必要なので、これでハイビジョン1chを送 ることができ、映像のほか音声やデータ放送などの情報も一緒に配信することができる 。固定テレビの場合、屋根の上の大きなアンテナによって受信するなど、受信条件が良 いので「64QAM」という変調方式を使っている。 1セグメントを使う携帯端末向けのチャンネルでは、200k〜300kbpsでデー タを伝送することになる。1セグメントしか使わないので、据え置きテレビ用に比べて かなり低速になる。これは電波の受信状況が悪くなる携帯端末を考慮して、速度よりも ノイズ対策を重視した結果である。携帯受信向けには「QPSK」と呼ぶ変調方式を使 う。QPSKはひとつの波形に2ビットだけを割り当てる方式で、はっきりと区別でき る波形でデータを送るのでノイズの影響を受けにくい。 映像のフォーマットも、携帯端末と据え置きテレビでは大きく違う。携帯端末向けの映 像はQVGA(320×240画素)というサイズが想定されている。単純に据え置き テレビ向けと同じMPEG−2で圧縮すると、1Mbps弱の伝送容量が必要になる。 そこで携帯端末向けの放送では、高い圧縮率を実現する「H.264」と呼ぶ技術を採 用することになった。これならばQVGAで15フレーム/秒の映像を200kbps 以下で伝送することができる。 しかし携帯端末で受信する場合、アンテナは小さく、アンテナ高も1〜2m程しかない 。これでは受信感度が大きく劣ることになる。このため地上デジタル放送の受信感度を できるだけ上げるために携帯端末側で様々な工夫が考えられている。有力な方法の1つ は、1台の携帯端末に2種類の違ったアンテナを搭載し、両方で受信する「ダイバーシ ティ受信」だ。2つのアンテナで同時に受信し、信号の品質がよい方を採用するのであ る。 しかし一般の視聴者にとってこの技術的な違いは殆ど理解されないだろう。両方式とも 「地上デジタル放送」に違いないのだ。携帯電話にはもともと伸縮式のホイップ・アン テナが付いている。携帯ラジオなどでよく採用されているイヤホンのケーブルを利用し たイヤホン・アンテナも有力候補だ。 <移動体受信の本格化はこれから> 今年3月、NHKおよび在京民放5社は地上デジタルテレビ放送における携帯受信端末 向けサービスで使用する映像圧縮技術として「AVC/H.264」を採用することと し、必須特許を管理している団体であるMPEGLA社と基本合意に達した。2005 年度中にはサービスが実現されるものとされている。 総務省は8月7日、地上デジタル放送を利用して災害時に避難情報を携帯電話端末など に提供できるようにするため官民合同の実証実験を2005年度に行う方針を明らかに した。テレビ放送には電話や電子メールと違って、通信トラフィックが集中する混雑現 象がないため災害時にも素早く確実に情報提供ができ、避難に役立つと期待されている 。実用化は2006年度からを目指している。また今後はデジタル放送の特性を生かし て、医療、教育の分野で活用することも検討されている。医療分野では高齢者向けに空 きベット情報などを提供するほか、教育分野では学校の時間割に合わせて必要な教育番 組を呼び出せるような仕組みを実験する。 アルプス電気ではこの夏、東京都内で自動車走行中の地上デジタル放送受信とアナログ 放送受信との比較デモを実施した。アナログ受信では大きく画像が乱れて視聴に無理が あったが、デジタル受信では安定した画像で受信できた。同社が開発したデジタル放送 受信用チューナー内蔵STBと良好な受信が可能な車内取付タイプのダイバーシティア ンテナにより、安定したデジタル受信を可能にした。時速70〜80キロ程度の速度で は安定受信でき、100キロ以上でも受信可能だという。同社ではこのシステムの開発 を今後も進め、2006年春頃の製品化を予定している。 <ギャップフィラー> 地上系システムの代表的な存在がギャップフィラーと呼ばれる中継機器である。ギャッ プフィラーとは、ビル陰やトンネル内、地下街など、通常の方法では電波の届かないエ リアに対して放送波を中継し、再送信する設備のことである。 「モバイル放送」の場合には、独自の衛星を打ち上げて、なおかつSバンドと呼ばれる 降雨減衰に強い帯域を使って、全国一波で移動体向けの放送を行うことになるため、都 市部などを中心にギャップフィラーを設置することは欠かせない。 東京都のように特に高層ビルが密集しているケースだと、1局のギャップフィラーでカ バーできるのは半径600mから1km程度の範囲と考えられる。その場合、必要とな る設置数は、どのレベルまで受信率を上げていくかにも依存するので一概には言えない ものの、地下への対応を除けば、関東生活圏(東京から50km以内)ではサービス開 始までに約2000局の設置が必要になるとされている。 地方都市の場合には、同じギャップフィラーでも半径2〜3km程度はカバーできるよ うなので設置数も少なくて済む。この点で言えば、地方の場合、むしろ200万円で山 間部のメディア過疎の解消ができるとすればコスト面では魅力的といえる。 一方、地上波デジタル放送の目玉商品として期待されている1セグモバイル受信も電波 受信が前提である以上、ビル陰対策は不可欠である。そのためギャップフィラーの設置 が検討されている。結局、1セグモバイルでも、きちんとした地上系システムの構築が これからの課題となる。 このようなインフラ構築がこれからスタートすることになるが、過去30年にわたりサ テライト中継局と難視救済施設が共存してきたことと、どこか似ている。 しかし、さまざまなメディアが競合しはじめたデジタル放送時代は、何でもありの時代 だけに、これから先は甚だ不透明である。鍵を握るのは視聴者ということになる。 以上
本稿は、衛星&ケーブルテレビ2004年11月号掲載「特集 地上波デジタル放送の現況」(株式会社テレケーブル新聞社発行)を途中省略して短縮したダイジェスト版となっております。全文を読みたい方は、(株)テレケーブル新聞社のバックナンバー販売をご利用ください。なお、本文中の<>内の小タイトルは東京アンテナ工事(株)HP担当が付けさせていただきました。